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2012/06/08

『濡れた太陽』高校演劇の話(上・下) 相原太陽はカッコつけていた。彼は受動的にモテたかったのだ。



モテない男子の青春が、こんなにも面白いなんて...。












ーゆあさコーポレーションオフィスー

(あおいが発声練習をしている)


あーーー
おあいうえ!!
おあいうえ!!


うーん。
この本によると、「お」から始めた方が発声がなめらかになるらしいんだけど、ほんとかなぁ?





あっ。
みなさん、こんにちは。
あおいです。



なんでいきなり発声練習しているかと言うと、
この本を読んだからなんですねぇ。

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高校に入学したての相原太陽は、オリエンテーションで独自の「桃太郎」を演出、上演し、絶賛されたことによって脚本を書きたいと思い始める。
そのため演劇部に入るのだが、すでに3年生のチームが独占している。
そこで太陽は演劇部の「のっとり」を企てて……。
演劇部を軸に、絡み合う恋愛、自意識との葛藤、モテない男子のリアルな会話。
誰もが自分の高校時代を思い出さずにはいられない、がんじがらめの青春小説!!
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相原太陽はモテたかった


主人公の名前は、相原太陽(あいはらたいよう)。
こいつがですねー、実に面白いんですよ。
面白いと言うか、変わっていると言うか。
こいつの心の描写を見てると、
高校生ってこんなに、色々考えるのかって思ったんですよね。


例えば、太陽が、自分はモテないと気付くシーン。





太陽は、小学生の時にはモテていたと言う自信があったんですね。
中学校は男子校だったから仕方ないとして、

「高校からは共学なんだから、自然に俺はまたモテるはずだ!」

彼は、そんな風に思っていた。
思っていたというより確信があったんです。


太陽は女好きでした。
大抵の男子は女の子のことが好きなんですけど、彼はその中でもかなり強い方の女好きだった。
けれど、当然のことながらそれを表には全く出さない。
それにオシャレな格好をするのも、なんだか恥ずかしくて、むしろ、
「服装や外見なんか気にしねぇ!」
ていう男の方がかっこいいと思っていた。
アホな男子高校生です。
でもこの考え方、僕なんかは「すごく分かる!」って感じでした。
なんかオシャレな服とかって恥ずかしいことありますよね?
「ちょっと頑張ってます!」っていうのが、さらけ出されているような気がして。


そんな考えを持つ太陽だから、その外見は微妙でした。
というか良くなかった。


大きくて丸いレンズの黒縁眼鏡に、ボサボサですごい量の髪の毛。
しかも、この髪の毛がなんだかしっとりしているもんだから、
濡れた犬、
なんて呼ばれてた。
身長も中学生の時にぴたりと止まってしまい、別に大きくはない。
つまり、地味で根暗な男子高校生に仕上がっているという訳です。
ほんとのところの太陽は、根暗じゃないんですけど。
でもそう見える。



こんなやつが、モテるはずがない。
しかも昔モテてたばっかりに、自分から積極的に行くのは違うと思ってる。



「モテに行っても仕方ない。
モテは享受するものだ。
おれは受動的にモテたいんだ!」



なーんて思想を持ってるもんですから、モテるどころか、女子と会話すら出来ない始末。
けれど、頭は悪くない太陽くん。
気付いたのです。


自分はモテないと。


「おれはモテない。女子が俺のことを見ていない」


そのことに気付いた太陽は悲しくなりました。
けれど彼はめげなかった。
どうにかしてモテたいと思った。
頭を悩ませるうちに、かれは良いアイデアを思いつきます。
彼は小説を書くのが好きでした。
一回も結末まで書けたことはないんですけど。

「この小説を使おう。この小説で孤独な男を演出するんだ。
 誰もいないところで、黙々と小説書いてる男はかっこいいんじゃないか。
 そのためには、孤独になれる場所を探さなければ
 孤独とは言っても、あまりに孤独すぎてはダメだ。
 多少オープンなところじゃないと。本当に寂しいヤツになっちまう」


あほですよねー。
こんなことをほんとうに真剣に考えてるんですから。
けれど男子高校生ってこういう生き物な気がします。
自意識過剰と言うかなんと言うか。


むしろ、「モテたい!」というその感情を、真っすぐに行動に移す太陽を少しだけ尊敬しちゃいました。
まあ、太陽は結局モテなかったんですけど。笑






作者 前田司郎がすごい




前田司郎さんです。

彼の仕事は劇作家であり
演出家であり
俳優であり
小説家でもあります。

演劇に関して言えば、劇団「五反田団」の主宰者でもありますから、もろにその世界の人って言う感じ。

そんな演劇の専門家が、演劇の小説を書いたんだから、面白くないはずない、ですよね。




『濡れた太陽』を読んでいると、
「ああ、この人はほんとに演劇の世界で生きてる人なんだなぁ」
って思う場面がいたるところにあります。


この小説の舞台になっているのは、高校生の演劇部ですから、
その練習方法や演出方法、それに配役をどうするかとか、
セリフをどうするかとか、いたるところに未熟な部分があって、
その未熟さ故に、部員が衝突したり劇にまとまりが生まれなかったり、
けっこう問題が起きちゃうんです。

(こんなのはもちろん使えません)


これは当然っちゃ当然の話ですよね。


前田さんは、なんでこういう問題が起こるのか、うまーく文章の合間で説明してくれます。
そしてその言葉が、優しくて分かりやすい。

「この役は、ストーリーの展開に都合が良過ぎるから、逆に気持ち悪くて、役者は演じ辛かったりする。まだ太陽たちは、こういうことには気付けないけど、これからやっていくうちに分かるようになるのさ」

みたいな感じ。




自分を出しちゃう作者

最近と言うか、『濡れた太陽』を読んで気付いたんですけど、
小説家の中には、
自分を出さない組(真面目組)と、
自分を出しちゃう組(どうでもいい組)があるなぁと思ったんです。


真面目組はどんな人たちかと言うと。

話の展開を、登場人物の心情だけで行う人たち。
上手く説明出来ないんですけど、作品の中に作者の声が入らないんです。
その人たちの作品には。

なんとかして、って言う意識はないのかもしれないけど、登場人物の言葉や行動、景色の描写や時の流れだけで、話が進む。
最近読んだやつだと、『天地明察』とかはそういう感じだったかな。


反対に、どうでも良い組はどういう人たちかと言うと。

ちょくちょく作者の声が入ってくるんです。
『濡れた太陽』で言えば、
「太陽は若かった。いや若いとか関係ないか。まあいいや」
みたいに。

こんな風に自分の文章にツッコミを入れてたりするんですよね。

作者の声が入ってても良いじゃん。

みたいなノリで書いてる。
このツッコミが、話の展開にリズムを生んでいて、なんだか楽しい気分になるんです。

真面目組とどうでも良い組。
どっちがいい、とかはないと思うんですけど。
文章の書き方ってその人の性格とか生き方とか、なんていうか人生においてのスタンスみたいなのが出るなぁと思いました。




きっと前田さんは恥ずかしかったはず!! そうでもないのかな?


僕は、この小説を読んで
「前田司郎っていうすごい人が居る」
と思いました。


なんでこんなにも、前田さんをほめるかっていうと、
『濡れた太陽』の登場人物達の、葛藤だったり心の描写がずば抜けていたからなんですね。

ずば抜けていたっていうと、ちょっとおおげさですけど、
この小説にでてくる人たちの、悩みだったり喜びだったり弱さだったりするものが、
全部自分にも当てはまるというか、胸にズキューンとくるというか、すんごいリアリティを持ってそこに存在していた。
うーん。まあそんな感じです。



「やっぱり舞台の演出家は違うなぁ。
今まで色々な役を見てきただろうから、
こういう場面にはこういう感情が生まれるとか、全部分かっちゃうんだろうなぁ」
と感心していました、最初は。


でもそれだけじゃないと気付いたんです。
いやきっとそういう部分も大いにあるとは思いますが。
きっと前田さんのそういう部分じゃないところが、太陽たちの本体をつくってるんだなぁと気付いたんです。


こんな歯がゆいシーンがありました。

太陽が青木鈴という同じクラスの女子に、話しかけようかどうか迷ったシーンです。

2人は隣の席同士だったんですけど、特に仲良くはなく、でも太陽は鈴のことを可愛いと思っていて、
「いやそんなことはない」

と自分に言い聞かせるという、そんな感じのとき。
太陽は図書室で、泣いてる鈴に出会います。


図書室に人は少なく、鈴は太陽の何個か後ろの席で泣いていました。
泣いている理由は、本編を読んで下さいな。



図書室という、教室とは違う特殊な空間で鈴と出会った。
太陽は無駄に意識していました。
変にドキドキしていました。
かなりのアホなんですが、こういうもんなんです。

鈴のことは可愛いと思う。もしかしたら好きなのかもしれない。
いやまさかそんなことは。ヘッヘッヘ。
この俺があいつが泣いてることに動揺しているのは、しゃくだ。
でもちょっと待てよ。
これは話しかけるチャンスかもしれない。
うぬぬー。

駆け巡ります。
太陽のなかで、色んなことが起こっていました。

そしてかれは意を決して席を立ちます。
ゆっくりと鈴の方に歩いて行く太陽。
鈴もそんな太陽に気がつきました。
全く知らないという訳ではない、むしろ席が隣なのですから良く知っていました。
目が合い、お互いを認識する2人。

おお、居たのか!と言う芝居を打つ太陽。

鈴があごで軽く挨拶します。
太陽も動かしてるのか分からないくらいの頭の動きで応答します。

そして鈴のすぐそばまで近づいた時、
太陽がついに口を開きました。

「おう。んじゃな」
「じゃねー」

これだけ。


これはぼくだーーーーー!!!
なんでぼくがここに居るんだー!!!


ぼくはそう思って、笑いました。

ナランチャが
「トリッシュの傷は俺の傷だ!!」
と叫びながら海を泳いだときのような感情を抱いたんです。
(ジョジョを知らない人ごめんなさい)


でもちょっとたって、
「これ前田さんじゃね?」
と思いました。

「そうだ!
きっとこれは前田さんだ!
あの人が高校生だった時の姿が、太陽や鈴なんだ!
前田さんが思ったことが、太陽が思うことなんだ!」
と思いました。


だからこんなにリアリティがあるのか!
全ての謎が解けたような気がしました。
前田さんは、昔の自分をさらけ出してる。
そう思ったんです。





女子と2人きりになると、なにか面白い話をしなくちゃと焦る男子。
合宿とかすっごいワクワクしてるのに、涼しい顔してるのがかっこいいと思ってる男子。
女子だけの部活に入ったら、エロいと思われるかなぁと心配する太陽。
演劇ってだせえなと思っちゃう渡井(わたらい)。
その他色々な男子や女子。



「うわぁ。前田さんはっずかしいー
こんなん昔好きだった人とかに見られてんだぜー」
と思った僕ですが。



「............。
やっぱりこいつらは俺だ。
というより、これが男子ってやつだろ。いや女子もか」
って思いました。

なんだろう。
この感じは。
あの時は、恥ずかしくて言い出せなかった悩みとか考えとか一杯あったし、
みんなは一体どんなこと思ってたんだろうか。
なーんてことを考えちゃいました。
そんな昔の自分や友達と、答え合わせをしてるみたいだな、と思いました。
「今だから言えるけど」
みたいな。


なんかそういうのが読んでて楽しかったなぁ。




演劇部も演技をするのは恥ずかしい!?


『濡れた太陽』に出てくる演劇部では、基礎練として早口言葉や、「あめんぼ」という詩の音読など色々な練習をします。



そういった基礎練の中に、「喜怒哀楽」という練習があるのですが、この練習が太陽たち新入部員を苦しめました。
というより、演劇部の先輩たちも恥ずかしい練習だったぽいです。


実際になにをやるかというと、説明するのはけっこう簡単なんですが、ただ単純に喜怒哀楽を全身で表現するんです。


これがけっこう恥ずかしい。
「喜」の時には、「ニッ」とした顔をしたり。
「怒」の時には、「ムー」って顔をしたり。
まあ顔だけじゃなく、全身を使って表現するんですが。


この練習が太陽は恥ずかしくていやだった。
自分でやるのもいやだったし、女子がやってるのを見るのも恥ずかしいと思っていた。


だから太陽はこの練習をやめて欲しいと思った。
それで部長の妙子(しっかり者で演劇大好き)に、この練習はなんのためにやるんですか?と聞いたんです。


妙子は答えました。
「この練習をやらないと、舞台で感情を表現出来ないでしょ?」


太陽は考えた。

そもそも感情を表現することって、現実の世界じゃあんまりないよな。
ていうか、「喜怒哀楽」できれいに分かれる感情自体あんまりないんじゃないか。
実際、喜んでるときは楽しかったりするし。
怒ってるときは哀しかったりする。
だったらこの練習にあんまり意味なんてないんじゃ?

ほんとのところ、太陽はかなりするどい。


けどまずいことに、この考えを太陽は妙子に言っちゃった。
まだ入ってきたばっかの素人なのに。
妙子はむかついたけど、確かにそうかも、と思った。
けどやっぱり基礎練は大事!って思ってるから、
「でもやっぱり表現が大きくないと、観客には伝わらないじゃない」
と言った。


太陽は、
現実でそんなに大きな表現をしないんだから、それで伝わらないなら仕方ないんじゃないか。
それよりも、色んな感情が入り交じってることを表現する練習の方が大事だ。
って思ったけどそれ以上は言わなかった。




このあと妙子は、やっぱり太陽は正しかったと痛感する。



色々あって、妙子は副顧問の女の先生にムカついていた。

(イメージです)



普段なら全然ムカつくことじゃないのにムカついた。
それは、練習が上手くいってなかったり、その女の先生が、妙子の好きな男の先生と仲良かったりすることへの嫉妬とか、いろんなものが混じり合っての「怒」の感情だった。
妙子は思った。

確かに太陽の言う通りだ。
わたしのこの感情は、普段だったら生まれなかったんだろうなぁ。
この感情は、怒りとはちがう色々な感情が存在して、その上で生まれもんなんだ、きっと。
やっぱり感情って、きれいに「喜怒哀楽」には分けられないのかもしれない。
たとえ演劇だとしてもそういうの表現出来たら良いのに。
けどやっぱり、そんなのは理想論だ。


妙子はちょっと太陽にもムカついた。



ぼくはこのシーンをみて。
すげえすげえすげえーーー!!!
って思った。


こんなこと考えますか、普通?
感情は感情ですよね。
ムカついたときは「怒」だし。
わーいっ!ってときは「喜」ですよね。
それをこんな風に分解して、その感情が生まれた理由まで分析するなんて。
こんなこと、ぼくは考えたことなかったなぁ。
どれだけ人の感情ってもんに向き合ったら、こういう発想が生まれるのでしょうか。
前田司郎おそるべしって、この時ちょっと思いました。



『濡れた太陽』(下)

下巻まで全部読み切ったけど、すっごく面白かった。


ちょっとあらすじ
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文化祭をなんとか乗り切った演劇部だったが、太陽は納得していなかった。
「妙子の作った戯曲はつまらない」
そう確信した太陽は、自らの戯曲で地区大会の演劇をすべく画策する。
太陽の才能がついに爆発する、怒濤の地区大会編開演。
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正直、上下巻あるのはちょっと重いかな、と思ってたんですけど。
全然そんなことなかった。


下巻の方が、ハラハラワクワクすると思うなぁ。


正直最後の1ページで泣きそうになりました。






ちょっと長くなっちゃいましたね。
ここで紹介したのは、この本のほんの一部です。


今高校生の人はもちろん読んでて楽しいと思う本だし、
今は大人になった人でも、やっぱり楽しい本だと思います。


是非『濡れた太陽』、読んでみて下さい。







今日も読んでくれてありがとうございます。
本を読んだ後って、いつもの景色がちょっと違ってみえませんか?




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