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2012/06/20

『漫画貧乏』:『ブラックジャックによろしく』の作者・佐藤秀峰の漫画人生を懸けた実験の記録。「10年後、漫画は消える」


出版社の裏切り。
紙との別れ。
売り上げは100%作家の元へ。

「どうすれば漫画は残るのか...」
ただそれだけを男は望んだ。













ーゆあさコーポレーション社長室ー

(ゆあさ社長が感動している)


佐藤秀峰すげえなぁ。


この人は、『ブラよろ』(『ブラックジャックによろしく』)の斉藤先生そのものだ。
どんな時も自分が信じることに目を背けないで戦おうとしている。

かっこいい。





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この記事はこの本『漫画貧乏』を参考にして書いています。



漫画貧乏

衰退する出版業界


いよいよ出版業界がヤバい。

年々落ちる週刊誌の売り上げ。
もはや漫画週刊誌という媒体は利益を生み出すものではなくなっている。

本著によると、ほとんどの漫画週刊誌は赤字である。
週刊誌だけでみれば、毎年何億もの赤字を積み上げている。

それでもなんとか続いているのは、
単行本(コミックス)売り上げでトントンまでもっていけるからだ。


それでもこの先も週刊誌の売り上げが落ち続ければ、
いつか週刊誌というものはこの世から姿を消すだろう。

それほど出版社の未来は暗い。


紙という媒体に限界が近づいているのかもしれない。



漫画家は連載しても赤字!?


漫画家には1ページごとに「原稿料」というものが、出版社から支払われる。
本著によると新人の時は、1ページ1万円弱、
連載作家の平均は3万円ほどであり、
一見すると「高いな」と思う人も居るかもしれない。


しかしそれは間違いだ。


原稿料だけで食べていける漫画家は恐らく一人も居ない。
なぜなら、それだけでは赤字だから。


なぜ赤字になるかを説明しよう。

漫画を描くためにはアシスタントを雇わないといけないし、
色んなところに取材をしに行かなくてはいけない、
必要な画材も用意しなければいけない。

そのための費用は、出版社からは出ない。
全て作家が用意する必要があるのだ。

その費用の合計は原稿料収入を軽く超える。
つまり連載すればするほどお金がなくなるということだ。


その赤字分はどうするのか。
それはコミックスを売るしかない。
コミックスが売れればなんとか生きていける。
もちろん人気漫画になれば、アニメや映画などの道も見えてくるが、
当面はやはりコミックスが主な収入源だ。



しかしそれは口で言うほど簡単なことではない。



漫画家の仕事は想像を絶する過酷さだ。
一週間休みなく描き続け、二日三日の徹夜は当たり前。
そうして連載を続けてもそれだけでは食べていけない。
コミックスが売れるまでは赤字を覚悟で描き続けるしかない。


それでも人気が出ないですぐに連載を打ち切られてしまえば、
残るのは借金だけ。


狭き門をくぐり抜け、熾烈な争いに耐え、
ついに勝ち取った連載。
10万分の1ともいわれる確率をくぐり抜けた漫画家でさえ収入を得ることさえ難しい。


漫画家の世界とはかくも厳しいものなのだ。

そんな漫画の世界を変えるため佐藤秀峰は立ち上がった。




漫画家の収入300万、出版社の収入1000万


本著によると漫画家の平均年収は300万にも満たない。

しかし、出版社の社員の年収は5年目で1000万を超える。


選び抜かれた漫画家が一度の休みもなく漫画を描いても、
出版社の社員の3分の1しか稼げない。


これはけっこう異常なことじゃないだろうか。



出版社の売り上げが落ちても彼らの給料は変わらない。
「搾取されている」
そんな言葉が頭をよぎる。


漫画家を支えるアシスタントの現状はさらにひどい。


正規の労働時間とは別の時間外労働は当たり前で、
その分の給料が払われないことも少なくなく、
時給100~200円ほどのアシスタントもたくさんいる。


労働基準法も漫画界には適用されないようで、
2、3日の徹夜は日常茶飯事。
そんなアシスタントの現実を漫画家はもちろん知っているが、
原稿料ではただでさえ赤字になるのだから、
かれらの給料を上げることもできない。


この過酷さに耐えられず、才能に溢れる者の多くが漫画家になることを諦めてこの世界を去っていく。





『ブラよろ』の裏側。出版社の裏切り。


『ブラックジャックによろしく』はモーニングに連載されていた佐藤秀峰の代表作である。
私もこの漫画は大好きだ。


この漫画によって人気作家の仲間入りを果たした佐藤秀峰。
けれどその裏側には、佐藤秀峰とモーニング編集部との知られざる戦いがあった。


その原因となったのがモーニングの裏切りである。

普通、漫画誌に連載する場合、
漫画家と出版社の間には原稿の一次利用契約が結ばれる。

一次利用とは雑誌に原稿を載せる権利のことだ。
それ以外、例えばアニメなどに利用する場合は2次利用と言って、
事前に漫画家に了承をとって契約を交わさなければならず、
出版社の独断で行うことは許されない。


原稿の著作権は漫画家に属しているのだから当然のことだ。


それをモーニングは破ってしまう。

海外の出版社に、佐藤には無断で原稿を提供したりオフィシャルファンブックを勝手に作ったり、けっこう好き勝手やってしまったのだ。

この編集部の行動に佐藤秀峰はキレた!!



さらにモーニングの好き勝手は続く。


その一つが、原稿の改変だ。

漫画家と編集者が相談を重ね、合意の上で原稿の内容を変えることは当然ある。

しかし、モーニングはその相談をせずに原稿を変えてしまったのだ。
佐藤から一度受け取った原稿に問題点があると思った編集部は、それを佐藤に相談せずに変更して誌面に載せたのである。


その他にも、超人気漫画家となった佐藤秀峰の原稿料が平均以下だったり、
その引き上げを拒んだり、モーニング編集部はけっこうヤバい。



佐藤のモーニング編集部への不信感は頂点に達していた。
そしてついに決別の日が訪れる。
『ブラよろ』の精神科編が終了したタイミングで、佐藤秀峰はモーニングを去った。


そしてその続編『新ブラックジャックによろしく』を、違う雑誌(ビッグコミックスピリッツ)で連載するという異例の決断をするのである。

なぜ佐藤秀峰は『新ブラックジャックによろしく』をモーニングで描かなかったのか。
私の長年の謎が『漫画貧乏』を読むことで解消された。



紙との別れ。「漫画 on Web」という答え。


その漫画家人生の中で、漫画家という職業の厳しさ、出版社と漫画家との不平等な関係、
出版社の悪しき体質をまざまざと見せつけられた佐藤秀峰。
そして紙という媒体の限界も悟る。
(佐藤はほんとうは紙が大好きだから紙のままがいいと思ってる)


彼はある日思い立つ。

「自分で漫画を売ろう!!」


それが「漫画 on Web」の始まりだった。


「漫画 on Web」とは、漫画家が出版社を通さずに直接読者に漫画を売るサイトである。
読者はこのサイトで使えるポイント(1P=1円)を購入し、
このサイトに登録された漫画や小説を閲覧したり、ダウンロードする権利を買う。

その利益は100%、作者に還元される。
出版社を通してコミックスを作った場合、印税収入は売り上げの10%ほどだから、単純計算で10倍の収入になる。

このサイトは漫画家にとって実に良心的なサービスなのだが、佐藤がここまでこぎ着けるまでには数多くの障害があった。
まさにそれは漫画人生を懸けた戦いだったと言ってもいい。



出版社との戦い。
仲間であるはずの漫画家からの批判。
サイトを作るための資金1000万円。
集まらない読者。
その他色々。


この戦いの部分が『漫画貧乏』で一番面白いところである。
が、これを書き出したら止まらないので、この部分は本著に任せたい。


その代わりと言ってはなんだが、
ここでは私が感動した言葉をお届けしよう。


それは佐藤秀峰の奥さんの言葉である。




未来の漫画を守ろう、意気揚々と行動を開始した佐藤であったが徐々に自分がやろうとしていることの難しさを悟る。


「これが失敗したら漫画家としては生きていけない」

悩む佐藤。

そんな彼は、ある日奥さんに相談してみた。

これを実現させようと思ったら、もう後戻りはできない。
出版社から嫌われ、普通の漫画家として生きるのは困難だ。
それに成功するかも分からない。
でも漫画を守るためには「これ」何だと思う。
僕のわがままにきみを巻き込んでもいいかい?



これを聞いた奥さんの答えは最高にイカしてた。


「最近おとなしかったから、丁度いいんじゃない?」



この言葉で佐藤の決意が固まった。


そしてついに、あらゆる困難を乗り越えて、
「漫画 on Web」を立ち上げる。



佐藤は語る。

「思い返せば、僕はいつも妻の言いなりだったんだよ。
漫画家になったのだってそう。
今回のプロジェクトもそう。
常に彼女に許されたことだけをやってきたんだ」




この夫にしてこの妻あり。

戦う男の奥さんは、
その男よりも強かった。




まとめ

いよいよ出版社はヤバいです。
漫画もこのままでは、10年後にはなくなっているかもしれません。

「そんなのいやだ!!」
そう思った佐藤秀峰。

彼は誰よりも漫画を愛しています。

『漫画貧乏』の中で「漫画と一緒に心中しようと思った」なんてことも言ってるくらいです。

彼が起こしたアクションは、
出版業界にとっては歓迎されることではありません。

しかしそれが漫画という文化にとってもマイナスなことかというと、
そうではないと思います。
もしかしたら10年後、佐藤秀峰のやり方が漫画、ひいては出版業界の主流になっているかもしれません。


「今のままでは漫画は消える」

「そんなことはさせない!!」


漫画家として歩んできた彼が、
漫画家としての人生を捨ててまで目指したものはなんだったのか。


『漫画貧乏』
出版業界の人はもちろん。
本を愛する全ての人に読んでもらいたい。
漫画家と出版社の本当の関係を教えてくれる、
素晴らしい本に仕上がっていると思います。



おわり








今日も読んでくれてありがとうございます。
佐藤秀峰は不器用で、荒くれ者で、嫌われ者です。
だけどこんな生き方に憧れてしまう自分が居ます。




お願い

面白い漫画、オススメの小説、どんなものでもどんなジャンルでも読むので、教えて頂けると嬉しいです。
コメント、twitter、Facebook、どっからでも良いので、反応くれるとすごくすごく嬉しいなぁ。






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