「今日からお前が社長だ」
「いやです、お父さん」
4月1日。
桜がきれいに咲いている。
今日は、入社式である。
そう。この日から。
ゆあさコーポレーションの新たな1年が始まる。
ー社長室ー
(かなり太めの男が、黒革の高級そうな椅子に座っている)
「うーん...困った...。入社式とか何喋りゃ良いんだよ!!なんでおれが社長なんか...」
〜1時間前〜
ー社長室ー
「息子よ。おれもそろそろ引退だ」
「えっ?引退しちゃうの?」
「年には勝てんな...。ハッハッハ...」
「そっかぁ。じゃあ、次の社長はおれに決めさせてよ!専務の"たかはし"なんか、おすすめだよ」
「息子よ」
「ん?なに、父さん?」
「次の社長はお前だ」
「え?ああ、監査役の"おのまえ"ね。んー。言っちゃ悪いけど、あいつ細かいから社長には、向いてないと思うよ。この前なんか、おれが、会社のお金でポルシェ買っただけで怒ってきたもん。ほんと、心狭いよなぁ」
「(そんなことしてたのか、こいつ...)そうじゃない。息子よ。お前だ。私の目の前にいる、お前のことだ。今日からお前が社長になるんだ」
「はーーー!?いやですよ!!断固反対!!ありえない!!」
「もう決めたことだ。今日から、この部屋はお前のものだ。好きに使ってくれ。さて、私は帰るとするかな」
スタスタスタ(足早に去ろうとする前社長)
「ちょっと!!父さん、待ってよ!!」
スタスタ(しかし、父は止まらない)
ガチャ(部屋から出て行く父)
部屋の外には、眼鏡をかけた白髪の男性が立っていた。
「社長、今日はもうお帰りですか。お疲れさまです」
「おお、ほそかわじゃないか。これからは、息子を頼んだぞ」
「え?むすこ?」
ガチャ(部屋から出てくる息子)
「父さん!!ふざけんなよ!!ちゃんと説明してくれよ!!」
(父は振り向かない。あっという間にエレベーターに乗り込んでしまった)
「まじか...」(うなだれる息子)
「おれが社長とか、ありえないだろ...」
「おや?今なんと?」
「だから、次の社長はおれなんだって...」
「ははは、ぼっちゃんも面白い冗談を言いますねー」
「冗談じゃねえよ!!お前にもなんか言ってっただろ?」
「いやいや、そのようなことはなにも......はて?もしやさっきのは?」
(ほそかわの心に「息子を頼んだぞ」という声が響く)
「あれは...まさか!!えええぇぇぇーーー!!!」
「うっさいなぁ!!」
「何故社長はそんなことを!!では!!私はどうすれば!!」
「父さんの秘書だったんだから、今度は俺の秘書になるんじゃないの?よろしくな」
「ありえないぃぃぃーーー!!!先代とは似ても似つかない、のろまで、でぶで、ケーキと唐揚げばかり食べてるような人の秘書とか!!アリエナイィィィーーー!!!」
「うるせえ!!」
ボコッ
「いたっ!!」
「お前クビにすんぞ!!」
「はっ!!」(正気に戻るほそかわ)
「(そうだ。今はもうこの人が社長なんだ)これはこれは、申し訳ありませんでした。おぼっちゃま。いや、ゆあさ社長!!」
「調子のいいじいさんだぜ。まあいいや、あとは任せたわ。俺も帰ろっと」
「お疲れさまです......。ん?いやいやいや!!今日は、入社式ですぞ!!社長には、新入社員へのスピーチをしてもらいませんと!!」
「はっ?」
〜現在〜
「なんで入社式に言うんだよ!!あのくそ親父!!」
「社長!!そろそろお時間ですぞ」
「え!?やばいやばい!!」
........。
「もういいや!!こうなったらぶっつけ本番だ!!」
ーゆあさコーポレーション35階、大ホールー
ガヤガヤガヤガヤ(ホールは新入社員で一杯である)
(マイクの前に立つほそかわ)
「えーー。みなさまお静かにお願いします。これより、社長の方からお話をしていただきます。新入社員のみなさまはこころして聞くように!!」
カツカツカツっ(壇上に上がるゆあさ社長)
ざわざわ(えっ!?なんかやばくない?てか、社長変わったの?)
「お静かに!!」(怒鳴るほそかわ)
(社長が喋りだす)
「えー」
「あれだ」
「なんだ?」
「んー...」
「今日はお日柄もよく...なんか違う」
「宣誓!!われわれ......これは球児だ」
「アメニモマケズ...これはけんじだ」
「えーっと、オホンっ!!わたしがこの会社の社長です。さっきなりました。今非常に困っています。ケーキが好きです。唐揚げも好きです。みなさんは何が好きですか?そんなことに興味はありません。とくにやる気はないので、みなさん頑張って下さい。みなさんのご活躍を祈ることが、私の最大限のボランティアです。可愛い子には旅をさせろ、この言葉を座右の銘とすることで、わたしの答辞にかえさせて頂きます。みんな違ってみんな良い。そういう人に私はなりたい。選手代表!!ゆあさ社長!!ご清聴ありがとうございました。はあと」
シーン(静まり返るホール)
「(完璧だ...俺は天才かもしれない)では!!」
カツカツカツ(ホールから出て行くゆあさ社長)
次の日。
全社員が、会社を去った。
ほそかわと、ただ一人の新入社員を残して......
つづく
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